第6章◎相続税はもっと取れ

税制について議論する時、政治家やマスコミは必ず「所得とのバランス」にこだわります。そして「年収○○万円以下の人には定額給付金を支給せよ」「年収○○万円の家庭では○○費を控除せよ」といった具合に “特例”を設けたがります。
確かに、たくさん稼いだ人は税金をたくさん納めるべきだし、収入が少ない人には軽くしたり免除したりするのは、もっともな話。とはいえ“落とし穴”があることには十分注意しなければなりません。「年収が少ない人」と「生活が苦しい人」は「必ずしもイコールではない」ということです。あなたの周りにもいませんか? 大して稼いでいるとは思えないのに、結構“いい暮らし”をしている人が……。

理由は簡単。そうした人は、収入が多いのではなく「資産」がたくさんあるのです。
その資産、ほとんどの場合、親から受け継いだものです。親は普通、子に財産を残します。残さない人もいるかもしれませんが、たいていは多少なりとも残して逝くでしょう。

資産を受け継ぐと、原則として「相続税」を課せられます。しかし、非課税の財産があったり、各種控除があるので、全ての人が相続税を納めているわけではありません。
では、相続税の納付対象になるだけの財産を残して亡くなる人は、死亡者全体の何%くらいなのでしょう? 驚いたことに4%程度だそうです。100人中、たったの4人です!

相続された資産は「退蔵金」と化す

今、国民の金融総資産は1,500兆円と言われますが、おそらく3分の2程度(約1千兆円)は60歳以上の方々の資産でしょう。失礼な言い方に聞こえるかもしれませんが、今後20年程度でその大半はお亡くなりになり、子供に資産が相続されると予想されます。
その“相続する側”の平均年齢は、おそらく50歳を超えているでしょう。50歳と言えば、子育てが終わり、定年も視野に入る年齢です。先々の収入が減っていくことを考えれば、「そう簡単には散財できない」と考えるのは自然なことです。貯金に動くことになるでしょう。すなわち、私が問題視している「退蔵金」の発生です。

親が子にカネを残すことができるから「退蔵金」になるのです。残すことができなければ「使い切ったほうが賢い」ということになり、カネの流れは増加します。「リバースモーゲージ」のような、新しい金融商品も生まれるでしょう。親が子に資産を残すことができなくすることで、非常に大きな経済効果を生むことは間違いありません。
もちろん、いきなり資産相続の凍結を行ったら、社会は大混乱に陥ってしまいます。でも、一つの「方向性」として検討する価値は十分あると思うのです。

少なくとも、現在の相続税制は改めるべきでしょう。税率は数倍に引き上げ、課税控除額はもっと引き下げるのです。それだけでも「退蔵金」の抑制につながるはずです。

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