第9章◎法人税は下げるな

「法人税は下げるべき」という声をよく聞きます。「日本の法人税は外国と比べて高すぎる。これでは国内の企業がどんどん海外に移転してしまうし、外国の企業も日本に進出したがらない」という論です。これについては実に悩ましい。「経営者」の立場から言えば、法人税は安いほうがいいに決まっています。「何としても法人税の減税を!」と叫びたいところ。でも、その気持ちをグッと抑え、私は敢えて次のように主張します。
「法人税を下げてはならない!」

確かに「税率」だけを見れば、日本の「30%」は、中国の25%、韓国の22%と比較して見劣りがします。しかし、アメリカは35%、フランスは33.33%、イギリスは28%ですから、先進国で極端に高いとは思えません。もっとも、ドイツは15%。同国の経済がヨーロッパでいち早く回復しつつあるのを見ると「やはり法人税率が……」という論が出るも分からないではありません。しかし、法人所得に課せられる他の税負担を考慮した「実効税率」を見ると、ドイツも29.41%になるのです。まあ、実効税率でも日本は40.69%ですから、まだ「高い」という印象は否めませんが、企業は税金だけでの立地を決めるのではありません。治安状況やインフラなど、いろいろな環境・条件を考慮して決めるのです。
ことさら法人税率だけを取り上げて論ずるのは、意味があることとは思えません。

企業に内部留保をつくらせない

法人税が下げられても、それで“浮いたカネ”が有効に使われるなら文句はありません。しかし「有効に使われる」どころか「使われないまま」になる可能性が大きいのです。
今年(2010年)の2月、当時の鳩山由紀夫首相と会談した志位和夫・日本共産党委員長は「大企業の内部留保は大きくなっており、それが日本の経済成長を損ねている」と指摘し、鳩山首相も一定の賛同を示しました。私は共産党の主義主張とは基本的に相容れないのですが、この指摘は「もっともな話」だと思います。世の中にカネが多く流れてこそ景気がよくなるのに、経済の主役たる企業がカネを貯め込んで、どうしようというのでしょう?

大半の企業は節税、つまり「いかにして合法的に税金を納めないようにするか」を真剣に考えます。税率が高い場合には、カネを事業に使うことが、最も有効で有益な節税になります。経費になるからです。しかし、税率が下がれば、使う必要がなくなります。結果、剰余金という「退蔵金」が増えることになります。
法人税率が高ければ、第6章の相続税のところで述べたのと同じ理屈で「税金に持っていかれるくらいなら使ってしまおう」となり、例えば新たな設備投資が起こることが期待できます。また、贅沢な社員旅行をしたり社有車として高級車を購入するなどの行動につながるのです。
もし、どうしても法人税率を下げるのなら、剰余金の増加を見越し、減税で増えた所得を半ば強制的にでも使わせる仕組みをつくってからにしてもらいたいと思います。

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