第25章◎「株式時価総額」のまやかし

テレビを見ていたら、有名な経済学者がこんな話をしていました。
「アメリカA社の株式時価総額は、日本円で5000億円です。あんな有名な企業を、たった5000億円で買うことができるのですよ!」
何を言っているのでしょう。買えるわけないじゃありませんか!
株式時価総額5000億円の企業を買う……つまり、発行済み株式を全て買収しようとすれば、おそらく1兆円あっても足りないでしょう。少しでも買収に動けば、その段階で株式市場は敏感に反応し、株価は高騰するからです。逆に、この企業のオーナーが発行済み株式の5分の1(1000億円分)を所有しており、その全てを市場で処分しようとすれば、おそらく500億円か600億円くらいにしかならないのではないでしょうか。売却に動いた段階で、やはり市場が反応し、株価が急落するからです。

上場企業の「現在の株価」に「発行済みの株式数」を乗じたものが「株式時価総額」です。市場での株価は需給関係で変動します。皆が買おうと思えば上がり、皆が売ろうと思えば下がるのです。必然的に、株価の変動に合わせて「株式時価総額」も変動します。
ということは、これは絶対的な価値を表している数値ではありません。指標とするには極めて曖昧だと思います。にもかかわらず、経済学者・評論家や政治家は、当然のように「株式時価総額」を、国や国民の金融資産額として仰ぎ奉ります。これが私には不思議でしょうがありません。なぜだれも「おかしい」と指摘しないのでしょう?

現金・預金を株式化すると「てこ」が働く

「株式時価総額」は、実際の資金流動以上に「てこの原理」が働きます。国民の金融資産の合計が約1500兆円だったとしましょう。内訳は銀行預金等が800兆円、株式資産が200兆円、その他の資産が500兆円、合わせて1500兆円です。仮に銀行預金のうちの100兆円が瞬時に株式市場に回ったとすると、預金は100兆円減るのですから、残高は当然700兆円になりますね。では株式資産の合計は100兆円増えて300兆円になるか……と言うと、絶対そうはなりません。おそらく400兆円、もしかしたら500兆円にまで膨らむでしょう。前述したように、株式の買収に伴い、株価が上昇するからです。

言い換えれば「退蔵金」としてしまい込まれた現金や預金の100兆円分を株式にシフトするだけで、1500兆円だった国民の金融資産合計が1600兆円に膨らむ可能性があるのです。退蔵金を銀行預金で持つか株式で持つかで国富が変化するのです。私は株式で持つ旨みを作り出すことで預金を株式へシフトさせるべきだと思います。27章でお話しします。

いずれにしろ、経済学者らが言う「国の富」なんて“極めていい加減な計算式”の上に成り立っているということだけは、私たちはしっかり認識しておく必要があります。

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